2026年6月30日、ONESTRUCTION株式会社の東京オフィスにて、エンジニア向けイベント「AI開発の今を知る『産業AI Night』〜建設×製造のAI開発最前線〜」を、ONESTRUCTION株式会社とAirion株式会社が共同で開催しました。

当日は、建設業・製造業という異なる領域でドメイン特化AIの開発に取り組む両社のエンジニアが登壇し、モデル開発の技術的な工夫だけでなく、データ作成や評価設計、学習環境の構築、実運用を見据えた課題についても共有しました。

ご参加いただいた皆さま、そしてフードスポンサーとしてご協賛いただいたWeights & Biases合同会社様に、あらためて御礼申し上げます。

【開催概要】

「AI開発の今を知る『産業AI Night』〜建設×製造のAI開発最前線〜」
日時:2026年6月30日 19:00〜20:00
会場:ONESTRUCTION株式会社 東京オフィス
共催:ONESTRUCTION株式会社、Airion株式会社
協賛:Weights & Biases合同会社

「産業AI Night〜建設×製造のAI開発最前線〜」の告知バナー。6月30日開催、両社の登壇者4名の顔写真入り

「産業AI Night」とは

AirionとONESTRUCTIONは、いずれも経済産業省・NEDOが推進する国内基盤モデル開発支援プログラム「GENIAC」のCycle3に採択されています。

Airionは製造業、ONESTRUCTIONは建設業を対象に、特定の専門領域に特化したLLM、いわゆるドメイン特化モデルの開発に取り組んできました。

対象業界や業務は異なりますが、両社には共通する課題があります。

それは、インターネット上に十分な学習データが存在せず、既存の大規模言語モデルにもほとんど知識が含まれていない専門領域において、どのように学習データを作り、モデルを評価し、現場で利用できる水準まで精度を高めるかという課題です。

今回のイベントは、こうした開発の過程で得られた知見や工夫、失敗から得た学びを、技術的な解像度を落とさず共有することを目的に企画しました。

定員を設けた少人数制のイベントとし、一方向の講演だけではなく、登壇者と参加者が具体的な開発課題について意見交換できる構成としました。

AirionとONESTRUCTIONの取り組み

イベント前半では、両社がGENIAC Cycle3で取り組んできたドメイン特化LLM開発の概要を紹介しました。

Airion:ラダープログラムを自動生成する製造業特化LLM

Airionが開発しているのは、工場の生産設備を制御するPLC、プログラマブルロジックコントローラ向けの専用言語である「ラダープログラム」を自動生成するLLMです。

Qwen3をベースモデルとし、Megatron-LM、verl、FSDP2を用いた分散学習基盤を構築しています。

モデルの学習では、次の3段階のパイプラインを採用しました。

継続事前学習(CPT)
教師ありファインチューニング(SFT)
強化学習(RL)

ラダープログラムは、ウェブ上に公開されている情報が極めて少なく、既存の大規模言語モデルの学習データにもほとんど含まれていない専門領域です。

そのため、一般的なプログラミング言語のように公開データを集めるだけでは、十分な学習環境を構築できません。

Airionでは、協業する生産設備メーカーの知見や実機データをもとに、学習データ、評価データセット、評価環境を構築しました。

実際の現場導入では、プログラム作成にかかる時間を約20%削減する効果も確認しています。

ONESTRUCTION:BIMからIDSを生成する建設業特化LLM

ONESTRUCTIONからは、BIM(Building Information Modeling)から属性確認用のチェックリストであるIDS(Information Delivery Specification)を自動生成するLLMについて紹介がありました。

IDSは、バージョン1.0が2024年頃に登場した比較的新しい技術であり、こちらもインターネット上に手本となるデータがほとんど存在しません。

ONESTRUCTIONでは、社内外の業界知見を継続事前学習によってモデルに注入したうえで、SFTやRLVRを実施しています。

また、社内のドメインエキスパートと複数回のワークショップを行い、解くべきタスクの定義から評価データセットの作成までを進めました。

BIM内の構造計算やエネルギー計算に必要な属性情報を確認する業務では、確認時間を55.53%削減する成果につながっています。

異なる業界でありながら、両社が「世の中にほとんど存在しない専門データをどのように作るか」という共通の壁に、それぞれ異なるアプローチで向き合ってきたことが見えてくるセッションとなりました。

登壇者紹介スライドを映す大型モニターを囲んで行われたパネルディスカッションの会場の様子

パネルディスカッション「AI開発の泥臭い現場」

イベント後半では、両社のAIエンジニア4名によるパネルディスカッションを実施しました。

【登壇者】

日高 洸陽氏
ONESTRUCTION株式会社 AI戦略ユニット マネージャー

金澤 亮氏
ONESTRUCTION株式会社 AI戦略ユニット

吉平 貴秀
Airion株式会社 AIエンジニア

野村 浩太郎
Airion株式会社 AIエンジニア

パネルディスカッションでは、技術成果だけでなく、開発の中で実際に直面した問題や、失敗から得た学びについても率直に共有しました。

開発で最も苦労したこと

Airionからは、学習環境の構築そのものが大きな難所だったことを紹介しました。

Megatron-LMのような分散学習フレームワークを導入しても、環境を構築しただけでは期待する学習性能が得られるとは限りません。

実際にモデルを学習させ、条件を変えて比較するまで、精度や学習効率を判断することはできません。

また、独自の学習手法を既存のライブラリに組み込む際には、ライブラリ同士の依存関係や互換性の問題にも直面しました。

さらに、ラダープログラムは既存モデルがほとんど知識を持たない領域です。

他のドメインで用いられるような、既存モデルによる大量の合成データ生成に依存することが難しく、学習用コーパスを一から整備する必要がありました。

ONESTRUCTIONからは、開発全体を通して、ドメインエキスパートとの継続的な協議が不可欠だったという話がありました。

「何をモデルに解かせるべきか」というタスク定義の段階から、社内の有識者に参加してもらう必要があり、評価ベンチマーク用のデータも数日をかけて手作業で作成したとのことです。

専門領域のAI開発では、モデルやGPUだけでなく、現場知識を持つ人との協働が開発の成否を左右することが、両社の事例から共通して見えてきました。

評価ベンチマークをどう設計したか

専門ドメイン向けのAI開発では、既存の一般的なベンチマークをそのまま利用できるとは限りません。

そのため、「何を正解とし、何を測定するのか」という評価タスク自体を定義するところから始める必要があります。

ONESTRUCTIONからは、対象タスクを限定しても、シナリオやモダリティごとに多数のパターンが存在することが紹介されました。

ドメインエキスパートとのワークショップを通じて実際の現場データを整理し、「満点が取れれば現場でも利用できる」という水準を意識して評価セットを設計したとのことです。

一方で、ベンチマークとして定義していない範囲については、モデルの動作を保証できません。

開発の途中でタスクの抜け漏れに気づき、急きょベンチマークを追加したという率直な振り返りも共有されました。

Airionからは、実機データをもとに作成したタスクデータセットを、どのように評価するかが大きな課題だったことを紹介しました。

汎用の大規模言語モデルをそのまま評価者として使用しても、PLCやラダープログラムに関するドメイン知識が不足しているため、適切な評価結果が得られない可能性があります。

そこでAirionでは、評価項目を整理したルーブリックと、メーカーのマニュアルを動的に参照する仕組みを組み合わせました。

会場からは、「そのルーブリック自体の妥当性を誰が確認するのか」という質問も寄せられました。

これに対して、専門家にすべての出力を詳細に採点してもらうのではなく、評価結果の点数感が大きくずれていないかを簡易的に確認してもらうことで、評価品質と専門家の負荷のバランスを取っていることを説明しました。

ドメイン特化AIでは、モデルを作るだけでなく、評価する仕組み自体も開発対象になる。

両社の議論から、あらためてその重要性が浮き彫りになりました。

精度改善に効いた、地味だが重要な工夫

このセッションでは、登壇者それぞれが、精度改善につながった具体的な工夫を紹介しました。

Airionからは、データ品質に応じて学習工程を使い分ける考え方を共有しました。

品質の高いデータはpost-trainingに使用し、一定のノイズを含むデータはpre-training側で活用することで、限られたデータを有効に配分しています。

また、強化学習における報酬とペナルティを丁寧に調整することで、SFTのみの場合と比較して、コンパイル率とpass@1の双方を数ポイント改善できたことも紹介しました。

一方で、報酬設計を誤ると、モデルが正しいプログラムを書くのではなく、単にコンパイルエラーを回避する方向へ最適化されてしまうことがあります。

これは強化学習特有の難しさであり、モデルが何を学習しているのかを継続的に確認する必要があります。

ONESTRUCTIONからは、評価データそのものの品質と正確性を最優先し、「すべてを疑う」という姿勢で確認を重ねたことが紹介されました。

また、汎用オープンモデルが生成したドメイン非依存のreasoningと、正解となるSFT出力を組み合わせて疑似reasoningデータを作成し、RLVRに利用した実験についても共有がありました。

その結果、あたかもIDSの内容を理解しているかのようなreasoningが得られたとのことです。

学習データ作成の工夫と、率直な失敗談

会場で特に盛り上がったのが、開発中の失敗談を共有するセッションです。

Airionからは、構文検証に使用していたコンパイラに、特定条件下で常に「成功」と判定するバグが存在したまま、評価を実行してしまった事例を紹介しました。

評価結果として異常に高い精度が出たことから問題に気づき、コンパイラ側の不具合を発見しました。

モデルの精度が想定以上に高いときには、成果として喜ぶ前に、データや評価環境、評価コードに問題がないかを疑う必要があります。

この経験から、モデルだけでなく評価系全体を継続的に検証する重要性を再認識しました。

ONESTRUCTIONからも、評価時にreasoning用のトークンを除外せずにスコアリングしてしまい、実際の性能よりも低いスコアが出続けていたという失敗談が共有されました。

reasoning部分を除外して再評価したことで、正しいスコアを確認できたとのことです。

一見すると精度の問題に見える現象が、実際にはモデルではなく評価実装の問題であることは珍しくありません。

両社の失敗談からも、ドメイン特化AIの開発では、学習・推論・評価を一体のシステムとして検証する必要があることが分かります。

モデルサイズ・推論コスト・精度のトレードオフ

最後のテーマでは、実運用を見据えたモデルサイズと推論環境について議論しました。

Airionが対象とするPLC制御では、生成されたプログラムが物理装置を直接動かす可能性があります。

そのため、推論速度を上げるために精度を大きく犠牲にするという選択は取りにくく、速度・コスト・精度の中でも、安全性と正確性を重視する必要があります。

現在は、ユーザー10〜20名程度の利用を想定し、80GB VRAMクラスのGPU1台で推論できる構成を検討しています。

クラウド環境であれば、vLLMやSGLangなどの推論ライブラリを活用することで、モデルサイズを大きくしても速度低下を一定範囲に抑えられます。

一方、工場内のローカル環境やオンプレミス環境への提供では、利用できる計算資源やインフラに制約があります。

モデルの性能だけでなく、導入先の設備、ユーザー数、セキュリティ要件、運用コストまで含めて設計する必要がある点は、製造業向けAIならではの課題です。

ONESTRUCTIONからは、GENIAC Cycle3で開発したモデルも含め、大規模なモデルを単純にホストし続けるのではなく、ビジネスモデルやユーザー体験をさらに磨き込む必要があるという現状が共有されました。

ドメイン特化モデルを実際の事業や業務に定着させるには、モデルの性能だけでなく、利用者がどのような場面で、どのような価値を得られるかまで設計する必要があります。

Weights & Biases様によるご協賛とプロダクト紹介

今回のイベントでは、Weights & Biases合同会社様に、会場設営および交流会のフードスポンサーとしてご協賛いただきました。

パネルディスカッション終了後には、同社の鎌田様にご登壇いただき、強化学習に関する無料公開のホワイトペーパーや、コーディングエージェントの活動履歴をトラッキングする機能、エージェント機能「Aria」など、最新のプロダクトアップデートをご紹介いただきました。

技術セッション後の交流会では、軽食を囲みながら、登壇者と参加者の間で具体的な開発手法や評価方法について活発な意見交換が行われました。

業界を越えて、産業AI開発者が知見を共有できる場へ

建設業と製造業。

対象とする業務も、使用するデータも、開発するモデルの形も異なります。一方で、両社の開発には多くの共通点がありました。

世の中にほとんど存在しない専門データをどう作るか
ドメインエキスパートの暗黙知をどう構造化するか
現場で通用する評価ベンチマークをどう設計するか
モデルの精度と推論コストをどう両立するか
評価環境やデータそのものの誤りをどう発見するか

こうした課題は、建設業や製造業だけに限られるものではありません。

医療、物流、エネルギー、金融、農業など、専門知識を扱う多くの産業に共通するテーマです。

一方で、その乗り越え方には、各社が扱う業務やデータの性質、そして開発を担当するエンジニアの思想が強く表れます。

今回のイベントを通じて、異なる業界の開発者が、成功事例だけでなく失敗や試行錯誤も含めて共有することの価値を、あらためて実感しました。

交流会では、参加者や協賛企業の皆さまから、次のような声をいただきました。

「ここまで技術的な解像度を落とさず、実際の開発現場の話を聞ける機会は少ない」
「特定業界×AIというテーマで、継続的なコミュニティに発展したら面白い」

Airionとしても、今回のイベントを単発の取り組みで終わらせず、製造業という枠を越えて、産業AIに取り組む開発者や企業が知見を共有できる場を広げていきたいと考えています。

AIモデルの性能だけを競うのではなく、現場の知識をどうデータに変換し、評価し、安全に社会実装していくか。

産業AIの発展には、業界や企業の垣根を越えた議論が今後ますます重要になると考えています。

ご参加ありがとうございました。

Weights & Biasesの鎌田氏が大型ディスプレイのスライドを使い最新プロダクトを紹介する様子

謝辞

共同でイベントを企画・開催いただいたONESTRUCTION株式会社の皆さま、フードスポンサーとしてご協賛いただき、最新の技術情報をご紹介いただいたWeights & Biases合同会社の鎌田様、そしてお忙しい中ご参加いただいた皆さまに、心より御礼申し上げます。

また、登壇したONESTRUCTIONの日高様、金澤様、Airionの吉平、野村にも、あらためて感謝いたします。

今後もAirionでは、製造業をはじめとする産業領域におけるAI開発の知見を発信するとともに、業界を越えた技術交流の機会をつくってまいります。